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東京高等裁判所 昭和34年(う)1991号 判決

控訴人 被告人 金在権

弁護人 臼杵祥三

検察官 八木胖

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中九十日を原判決の本刑に算入する。

理由

よつて案ずるに原判決認定の原判示第一の(一)(二)、第二、第三の各事実は所論各承諾の点其の他を含めて総て其の挙示する対応証拠により優に之を肯認することが出来るのであつて、これ等対応証拠によれば(一)原判示第一の(一)のように原審相被告人金泰鉉同乾正二同福田七郎等が昭和三十三年六月二日午前二時頃から被告人方階下に猿谷牧雄、番場由治、河鍋早苗、横田哲夫等を暴行又は脅迫乃至見張を附ける等の手段により不法監禁し、同日正午頃帰宅した被告人は帰宅前バー「ミロ」において右監禁するに至つた事情を一部終始聴き、帰宅後右金泰鉉等が猿谷牧雄等を監視して居るのを見聞したのに拘らず依然之を監視状態に置いたまま、同人等を難詰し或は殴打する等同人等に脱出出来ないことを感得させて、不法に監禁し、同日午後二時頃右金泰鉉等が中島常雄こと李東夏を探出し被告人方に連行して来るや、同日午後四時頃迄被告人方に右李東夏を監禁し、被告人方二階で同人に対し前夜の行動を難詰した上同人の頭部背中等を手拳、木刀を以て殴打し因つて同人に対し全治迄約十日間の加療を要する頭部裂傷を負わしたことが明らかであつて、被告人は猿谷牧雄等を監禁して居るとき、其の途中より犯行を充分認識し乍ら犯意を共通して右監禁状態を利用し依然同人等の監禁を続けたものであるから、所謂承継的共同正犯者として其の帰宅前の監禁をも含めて全部に付責任あることが明らかである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 山田要治 判事 岸上康夫 判事 鈴木良一)

弁護人臼杵祥三の控訴趣意

更に、仮りに一歩を譲つて、右の場合に監禁罪の成立ありとして、では何故、当日、栃木県に赴いて居て、全く之について関知していない被告人金在権が、共同正犯の責任を負わねばならないのであろうか。被告人金在権が帰宅したのは、六月二日午後二時から同時にかけてであるが、(この帰宅時刻について各証人の証言は昼すぎ、零時半、一時半、二時頃、四時等と全く一致していない。只、横田哲夫が『柱時計があつたのを遇然見て四時と記憶しています。』と明確に答えておる。(横田哲夫の証言、第三回公判調書。)そうだとすると被告人金在権が帰宅してから、被害者等四名が帰路につくまでの間隔が極めて短時間であると云うことになる。之はなかなか意味深長であると云わなければならない。)その際、被害者等四名がそこに寝て居ることを知つていて釈放してやらなかつたことが、果して監禁罪にあたるであろうかどうか。此の場合、被告人金在権は、只、『この連中がバーミロで暴れたのです』と云う報告を受けた丈であつて、彼等を監禁しているところですとか、或いは『これからも監禁しておきますか』とか云う様な相談を受けたり共謀をした事実は全く無いのである。被告人金在権は彼等が最初連行されたにせよ、その後は承諾してそこに滞在していると思い込む余地は充分にあつたのである。この様な場合に、全く共謀の事実が存在しないにも拘らず(立証されていないにも拘らず、)承継的共同正犯を認定し、亦、被告人金在権が監禁の故意を有していなかつたにも拘わらず(亦、それが立証されていないにも拘わらず)不作為による監禁罪を認定する事が果して妥当であろうか。被告人等の間に於ては、かかる共謀が瞬時の間に成立し、亦、かかる監禁の故意が日常茶飯事の如くに成立すると云う意味で、原審判決が右の如き認定をなしたのならば、本弁護人が序論に於いて述べた如く、それは『被告人等の構成する極東組が一種の犯罪団体である』と云う独断の下に立つた結論であつて、重大な事実誤認と云わなければならないであろう。被告人金在権は単に、他の六名が為した監禁の結果を利用して、暴行脅迫をなしたに過ぎないのであるから、若しも刑責を問われるならば、暴行罪並に脅迫罪に問擬さるべきであろう。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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